「声楽」という楽器の演奏法 一問一答
このエントリーは「講演会”声楽”という楽器の演奏法」に寄せられた質問に一問一答の形式でお答えしたものです。
大全音と小全音の違いの具体的な例を知りたいです
宇田川
この件に関しては、「美しいメロディとは」仮題 というタイトルで次の講演を予定しています。
そこでは2~3曲のアリアあるいは歌曲を選曲し、転調を確認し、調判定をし、移動ドで大全音と小全音と半音とを確認し、歌詞を載せる。
これらの曲を何人かの人に歌っていただいて、メロディーとそのメロディーを歌うための具体例、子音の問題、母音の問題を組み合わせて、もう少し具体的な講義にしようと思っています。
もちろんこれらは公開レッスンという形にします。その講義を期待していてください。トリッロとグルッポの違いがいまいちわかりませんでした
宇田川
まずトリッロ。 トリッロとは、一口でいうと「同音連打」だということです。
トリッロにはいくつか違うものがあるらしくて
ひとつは、
「解決音のひとつ前の音、つまりドミナント・・・・
例えば、解決音より2度高い音などについているトリッロは、
“同音連打”をだんだん速くしながらディミヌエンドをするという約束があるようです。
それに対して、
「経過音的に使われる」場合があります。
例えば、
ド・シ・シ・ラ・ソ とメロディーがあった場合
ドにトリッロがあり、二個目のシにトリッロがあって、それらの音を反復することで音型の流れがより装飾的になる、という扱われ方があるようです。
つまり、
ドドド・シ・シシシ・ラ・ソ
というように。
およそこの2つに大別できるようです。
グルッポは、
今日我々が使っている「トリル」というものに似ています。
楽譜上の音の一つ上の音と、書いてある音とを繰り返し・・・
つまり
「ラ」にグルッポがついていれば 「シラシラシラシラ」となります。
これも、遅く始めてだんだん速くなるというような傾向があります。
グルッポが最後のところでトリッロに結びついて解決音になったりすることがあります。
つまり、
シラ・シラ・シラ・ラララララ・・・ソ
といったように。
ただし、カッチーニの作品には作曲家によって書かれた「グルッポ」の具体例がごく少ないのでどれぐらいの頻度で使うべきなのかはよくわかりません。今日はいろんな事を学べましたが、まずは何から始めればいいか悩んでしまいます
宇田川
声楽家が、歌い始める前にする発声練習の段階からするとよいと思っています。
ひとつの母音で 例えばド・レ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・レ・ドいう音程で
ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・と発声練習する代わりに
「大全音」と「小全音」と「半音」をきちんと組み合わせて
移動ドのド・レ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・レ・ドという音程で
Sa・Sa・Sa・Sa・Sa・Sa・Sa・Sa・Sa
Ta・Ta・Ta・Ta・Ta・Ta・Ta・Ta・Ta
Ba・Ba・Ba・Ba・Ba・Ba・Ba・Ba・Ba
などとやるのが良いです。
それが、調が半音あがったら、半音あがった音を「移動ド」の「ド」として次の「レ」は大全音で、「レ」の隣りの「ミ」は小全音で・・・と、いちいち音程をとります。
要するに、「音程」も「母音」も「子音」も同時にすべて練習するのです。バロック時代の楽譜は調性を調号ではなく、臨時記号で表すものなのでしょうか
宇田川
バロック時代の楽譜はト長調は♯がひとつもなく、ヘ長調も♭がひとつもなく書かれていて、ニ長調になると、♯ひとつで書かれています。(この場合、臨時記号にドの♯がついているのです。)
つまり、調号がひとつ少なく書かれている・・・。そういう傾向があるのです。
ただし、それがいつからそうなったのか、いつまでそうなのかは、はっきりわからないので調べておきます。ロマネスカの楽譜にかっこ書きのハ音記号とト音記号、両方があるのはどういう意味でしょうか
宇田川
現代譜の一番最初にハ音記号で書かれていたりするものはオリジナルの楽譜が、その形で書かれていた最初の音を表す約束になっています。
つまり、もしオリジナルの楽譜がソプラノ記号で書かれており、最初の音が第4線上に付点4部音符書いてあったら、現代譜ではト音部記号の第3線上の付点音符のシの音となりますが、「オリジナルの譜面では元々こうでしたよ。」ということを理解してもらうために、現代譜の最初の音の前に、ソプラノ記号でシの音が書き表されるという習慣があります。
現代譜の前に書かれているそれが、オリジナルの楽譜の記号と調号です。ピアノで音をとらないでと言われましたが、どのように練習をしたらよいのでしょうか
宇田川
例えば今あなたはFdurの曲を歌っているとします。
まず、Fの音をたたきながら
F・G・A・B・C・D・E・Fと音階をとる練習をします。
Fの音をたたきながらG、Fの音をたたきながらA・・・ など
Fだけをたたきながら音階をとっていきます。
もちろん、この時きちんと大全音・小全音・半音とやりながらです。
それが終わったら次は、
Fをたたきながら
F・A・C・F、
F・C・A・F、
などと分散和音を歌ってみます。
純正調で。しかも移動ドで。いい音で歌えたときはピアノの音と少しずつ違う、ということがわかってきます。
すなわち、練習したいそのメロディーがFdurである限りピアノで叩けるのはFだけなのです。
純正律のあたりで混乱してしまいました。半音ってどうやるんですか?
宇田川
半音は音階ではミとファの間、シとドの間だけです。
ミは、ドと長3度でハモります。
シは、ソと長3度でハモります。
それぞれの長3度は大全音+小全音でできています。
そうすると
「純正4度」と「長3度」との間が「半音」です。
つまり、
ド→ファ と、とった音と
ド→ミ と、とった音の間が「半音」です。
いずれにしても、ドを基準に音をとるのです。
「大全音」も「小全音」も「半音」もすべて。発声・発音・音程などは理論的に、表現は感覚で・・と言う理解でいいのでしょうか?
宇田川
まず、「技術的なもの」と「芸術的なもの」と二つに分けるとすると・・・
それを今、フィギュアスケートに例えるとします。
発声・発音・音程などは「技術点」。では「芸術点」とは何でしょうか。・・・
イナバウアーが美しいかどうか!でしょう!
それから、どれだけリズミックであるか、だとかどうやって全体をまとめてある、だとか。
要するに、「美しい」という言葉に属するものです。そうすると、「美しい」といわれる芸術点は声楽の場合は何かと考える必要があります。
「芸術点」とは、
どれほど美しい「音」であるか、
どれほど美しいメロディに聞こえるか、
具体的には、例えば
アゴーギグといわれるものを、どれだけやるか”ということ。
「どのくらい」クレッシェンドするとか
「どのくらい」アッチェレランドするかとか
「どのくらい」テヌートにするとか
「どのくらい」短くするとか・・・
すべて、画一的に数値化できないものをいうのです。
この場合はこれ、などと譜面では書き表せられないもの・・・
和音の色合い、だとか和音の濃さ・重さ・軽さのような形容詞や副詞で表されるようなものを「美しさ」というわけですから・・・・。ここが肝心ですが、その「美しさ(芸術点)」といわれる部分を果たして、どれだけ「技術点」でカバーできるか・・・。
たとえば、芸術点である上記のクレッシェンドでさえクレッシェンドを効果的にするには、技術でどのくらいカバーできるかにかかってきます。
その美しさといわれる部分でさえ「技術点」でカバーできないものがあるとすれば・・・それこそが「芸術点」なのです。
感性は、あらゆる音楽家が譜面を最初に見た瞬間に感じているはずのものです。
趣味で歌をたしなんでいる程度なので、レベルが高すぎで!!
宇田川
趣味の方がとことんやれるのですよ。
趣味には命かけられますからね。(笑)
趣味だからこそ、楽しめるんですよ。
趣味だからこそ、お金も時間もかけられるんです。
がんばってください。
- 2007年11月25日19:59
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